この年は最後にドカンと大物、ヴィアノヴァ弦楽四重奏団との共演があった。今思えば楽しい
思い出だがとても大変だった。メンバーはパリ音楽院教授でこの四重奏団創始者のジャン・
ムイエール、チェロの名手ジャン・マリー=ガマール、この2人はレギュラーなのだが今回は
ヴィオラにはヴィオッティ・カルテットでおなじみのピエール・フランク、2ndは病気のザブレに
かわって巨匠アラン・モグリアという超豪華な顔ぶれだった。
もともと録音を通してヴィア・ノヴァ弦楽四重奏団の事は大好きだったのである。
事件が起きた。ヴィオラのフランクとムイエール先生がリハーサルで大喧嘩を始め、決定的な
ところまで行ってしまったのだ(笑)。非常に殺伐とした雰囲気で大好きなフォーレの室内楽は
それぞれの意見がまとまらず、私自身にも独特のテンポの指定を押し付けられ、研究者から
大変不評をもらっていた。それはインターネットでその感想があったのを後に見つけたのだが、
結局書いたその人ともいろいろ話す機会をもてて、名誉挽回も出来て・・・考えてみると面白い
経験だ。この時のフォーレの演奏会はNHKの録音が入って、あちこちアンサンブルの具合が
悪く私自身は嫌だったのだが、これが何故か一般には大好評で、フランス音楽の権威の永富
正行先生はじめ評論家の皆さんからもお褒めの言葉を戴いた。ユニークな評論活動で有名な
渡辺和彦氏にも「斎藤さんと言えばかってNHKFMでやってたフランス室内楽が名演で・・・」
みたいに未だに紹介されてしまう。だから世の中わからない・・・たとえ自分が「調子が悪い」と
思っても、人はどう感じるかわからないのだから、絶対に捨てて弾いたりしてはいけないのだ。
すごく自分でうまくいっていてけなされる事もあったりするが、あんまり良くないと思ってるのに
絶賛されるのはプロとしては良いことだろう、幸運に乾杯というところだ(笑)。実際、良かったの
かもしれないのだから。賛否両論は世の常だし、本当はそのぐらいの方が価値があったりする。
この時のモグリアさんとは、名古屋国際コンクールの審査員として再会した。彼はよく覚えて
いてくれて、私のフォーレのCDを喜んで受け取ってくれた。
さて一方のフランクの五重奏曲に関しては、自分で言うのもなんだが超名演だった。各誌絶賛
だったし、それよりも何より弾いていて感動した。ヴィアノヴァも素晴らしい演奏と解釈と妙技で
魅せてくれた。「どうして録音していなかったの?」と永松氏に何回愚痴ったことか。おかげ様で
フランクは私の最も得意なレパートリーの1つだし、わが弟子はみんな、この曲がうまい(笑)。
つまり彼らとの共演を通して私自身も、この難曲の真髄に触れることが出来たということである。
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演奏した曲 ●
フランク ピアノ五重奏曲へ短調
フォーレ ピアノ四重奏曲第1番ハ短調 作品15
フォーレ ピアノ五重奏曲第1番ニ短調 作品89